明日を拓け! 八角周平
カヌー 八角周平(B&G香取市小見川海洋クラブ/佐原高校2年)
小見川、カナディアンカヌー、八角周平の名をとどろかせたい。
バスケットボールで挫折
強くなりたい。八角周平は小さい頃からそう思い続けていた。体が弱く、幼稚園時代は病欠ばかり。だから小学3年で始めたミニバスケットボールには打ち込んだ。しかし、小柄ゆえに「仲間に迷惑をかける」のが苦しかった。そんな八角に両親は、「個人の競技で、地元の小見川でしかできないスポーツもある」と言葉をかけた。
彼らはその時、自身は乗ったこともないカヌーで、息子がわずか数年のうちに全国優勝や世界大会出場を成し遂げる選手になるとは夢にも思っていなかったはずだ。「ミニバスで強くなれなかったトラウマは、カヌーでの頑張りに影響しています。カナディアンカヌーを選んだのも、友達数人で初めて乗った時に自分だけ沈まなくて、"イケるかも"と思ったから」
カヌーには、艇に甲板のないカナディアンカヌーと、漕ぎ手が座るコックピット以外は甲板で覆われたカヤックがある。前者はブレード(水かき)が片端だけに付いたパドル(櫂)で、後者は両端にブレードが付いたパドルで漕ぎ進む。カナディアンカヌーはカヤックがおよそ二漕ぎする間に一漕ぎの上、左右の水面の片側だけを漕ぎながら真っ直ぐ進ませる技術が必須だ。
「カナディアンカヌーの難しさ、それを克服していくのが楽しい。自分の力がダイレクトに伝わって前進する。しかも水の上を!気持ちいいです」
体育館から水上へ。八角は、カヌーで有名な「B&G香取市小見川海洋クラブ」と目の前を流れる利根川の支流、黒部川で、自分だけの強さを獲得したのだ。
ジャポネーゼ、頑張る
八角を中学1年から指導する秋葉一憲コーチは、国体の千葉県カヌーチームの監督経験もあり、&小見川において毎年のようにインターハイ覇者を誕生させている凄腕コーチだ。コーチは八角の強みをこう解説する。 「漕ぎ終わった瞬間のパドルの返し方が巧みでロスが少ない。パドルさばきで前に進むという、カナディアンカヌーの一番難しいところがうまいんです。レースでの武器は、なんといっても終盤の強さ」
中学3年でジュニアオリンピックカップ全国中学生カヌー大会で優勝し国体にも出場。高校進学後もインターハイと国体で上位に食い込み、今年3月の海外派遣選手選考会で100メートルと200メートルをともに制してジュニア日本代表となった。そして7月、初めての国際大会、カヌースプリントジュニアU23世界選手権大会(ポルトガル・モンテモル)に挑んだ。
「体の大きさからすると全員大人で僕だけ小学生という感じ。すれ違いざまにジャポネーゼ、ジャポネーゼと笑われちゃいました。世界初参戦で12位は上出来でしたが、11位のタイムとも差があって悔しかった」
体を大きくすることは目下最大の課題だ。オリンピックのカヌーでは日本人メダリストはまだいないが、日本人の長所であるスピードを生かして悲願に迫っている。「周平はフォームやテクニックにあまり悪いところはない。世界で戦うためにはやはりスピードを出せる体。もっと大きくなってパワーがつけば、最初から積極的で中盤も高いスピードで行く攻めの選手になれる」(秋葉コーチ)
水上のまち小見川から世界へ 平日は夕方から1時間半水上でカヌーを漕ぎ、その後通称"陸トレ"に2時間を費やす。筋力トレーニングが大半だが、漕ぐ動きに負荷をかけられるカヌーに特化したエルゴメーターも活用している。水の上ではバランスをとることに注意が向くためなかなか追い込むトレーニングができない。このマシンは水に近い動きでフォームを作りつつ、いわゆる体のエンジンを鍛えることができるのだ。この日は他にスクワットやキロのベンチプレスまでをこなした。
食事と睡眠も大事なのでくつろぐ時間はあまりないが、動画で海外選手のフォームを子細に見るなど探究心も旺盛だ。学校の勉強は通学時間などの隙間学習だと笑う。生まれ育った小見川が水上スポーツの町であることを、自分の活躍で世界に発信したいという思いもある。今年のインターハイでは500メートルで優勝し、B&G小見川のインターハイ優勝者の系譜に連なることもできた。だが、八角の目標はより高いところにある。
レースでは心で叫ぶ。 「負けたくない。ここで負けたら他でも負ける。この先の自分にも負ける!」 弱い自分はごめんだという気概が、八角のスパートだ。自己分析やイメージトレーニングにも余念がない彼ならば、未来の自分を描きながら練習を重ねていることだろう。2020年の八角周平はどんなレースを見せてくれるのか。「あの時のジャポネーゼだ」と海外の選手を驚かせてくれたら痛快だ。